世代を超えて守り続ける:箱根旧街道松並木と錦田一里塚の風景
1.箱根旧街道の松並木と錦田一里塚について
三島市の旧東海道沿いには、江戸時代に植えられたとされる箱根旧街道の松並木(図1)と錦田一里塚(図2)が残っています(図3)。
現地の看板説明(平成11年3月,三島市教育委員会)によると「箱根旧街道は、徳川家康により慶長九年(1604年)に整備され、道の両側には松や杉の並木が植えられ、一里ごとに塚がつくられた。しかし、箱根路は急坂のため道が荒れ、しかも赤土で滑りやすかったので、その対策として、最初は箱根竹を束にして敷いたが費用がかさみ、延宝八年(1680年)に幕府は箱根路を石畳に改修させた。この初音ヶ原付近では、現在の国道一号上り線に旧街道があった。また、松並木は、明治以降枯れるに任せたため、年々その姿を消し、むかしの風情を残している並木は、この初音ヶ原並木が三島市内に残っている唯一のもので、約一キロメートルに及んでおり、錦田一里塚とともに、箱根旧街道の面影を色濃く残している。」とのことです。箱根旧街道は国指定史跡となっています。
同様に、国指定史跡の錦田一里塚についての現地看板説明(平成8年2月,三島市教育委員会)は「江戸幕府は慶長九年(1604年)、東海道をはじめ主要街道に並木を植えるなどして街道を整備した。その一環として一里(約四キロメートル)ごとに街道の両側に直径約10mの円形の塚を築き、その上に風雨に強い榎や松を植え、これを一里塚と称した。一里塚は大名の参勤交代や旅人の道程の目安、馬や籠の賃金の目安、旅人の憩の場等、多方面に活用されていた。錦田一里塚は江戸日本橋より始まる東海道の二八里(約一一二キロメートル)の地点にあり、松並木の間に道路をはさんで向かい合って一対残っており、旧態を保っていて貴重であるので国指定史跡となっている」と記しています。
かつて旅人たちが行き交い、街道の目印や休息の場となったこの景観は、歴史的にも文化的にも大変貴重なものです。


図3.箱根旧街道松並木と錦田一里塚の位置
グーグルマップ上の朱色マークをクリックすると情報が表示されます。
2.歴史ある松並木と一里塚を守るために
時代の移り変わりとともに箱根旧街道の手入れが行き届かなくなり、松葉や雑草、ごみが散乱するようになりました。こうした状況を憂い、1995年に地元の篤志家・渡辺光信氏が呼びかけて「松並木と一里塚を守る会」が発足しました。会の活動は偶数月の第3日曜日に実施され、会員たちは石畳の遊歩道を箒や熊手で掃き清め、景観の保全に努めてきました。活動は派手さこそありませんが、続けることで確かな効果をあげ、ポイ捨ても大幅に減少しました(図4)。
松並木を守るという営みは、単なる清掃活動にとどまらず、「地域の歴史を次世代につなぐ文化的継承」としての意義を持ちます。今では観光客が三島を訪れる際の重要な景観資源となり、街の魅力を支える存在となっています。

3.中学生の参加が支える活動
2001年からは、三島市立錦田中学校の生徒たちが「松並木と一里塚を守る会」の活動に加わりました。毎回100人近い生徒が自発的に集まり、箒や熊手を手に石畳の遊歩道を掃き清めています。清掃活動は日曜日に行われるため任意参加ですが、それでも多くの生徒が参加し、地域への貢献を実感しています。
錦田中の生徒たちは、清掃作業だけでなく、古くなった案内看板のリニューアルや遊歩道への陶板画設置の原案作成などにも協力しています。こうした取り組みは、環境美化の枠を超えて「地域文化を創る活動」として広がっています。
参加した生徒からは「達成感があった」「先輩の姿を見て自分もやりたいと思った」との声があり、活動が学校教育にも大きな効果をもたらしていることがわかります。地域住民と肩を並べて作業する経験は、次世代を担う若者に誇りと責任感を育む貴重な場となっています。
4.数々の表彰が示す社会的評価
長年の地道な努力は、さまざまな形で社会から評価されてきました。「松並木と一里塚を守る会」と「三島市立錦田中学校」は、表1にあるように表彰など、数多くの栄誉を受けています。これらの受賞は、会員や生徒にとって大きな励みであり、地域に誇りをもたらすものとなっています。
特に2025年9月には、中部地方整備局長表彰が今井紀三男会長と錦田中学校の生徒代表に伝達されました。世代を超えた協力が評価され、式典では生徒が「良い経験になった」と感想を述べました。こうした受賞の場は、生徒たちにとっても社会参加の意義を実感する機会となっています(図5)。
表彰の数々は、活動が単なる清掃作業ではなく、歴史的景観を守り、地域社会を育む重要な営みであることを示しています。
表1.松並木と一里塚を守る会および三島市立錦田中学校の受賞歴
年度 | 表彰機関 | 表彰名 | 団体名 |
2025 | 国土交通省 中部地方整備局 | 中部地方整備局長表彰 | 松並木と一里塚を守る会、三島市立錦田中学校(連名) |
2024 | 公益社団法人食品容器環境美化協会 | 環境美化教育優良校等表彰(優良校) | 三島市立錦田中学校 |
2021 | 三島市 | 環境美化推進大会における表彰 | 松並木と一里塚を守る会 |
2020 | 公益財団法人「小さな親切」運動本部 | 第686回小さな親切運動実行章 | 松並木と一里塚を守る会、三島市立錦田中学校(連名) |
2018 | 国土交通省 | 道路愛護団体等の国土交通大臣表彰(道路の美化) | 松並木と一里塚を守る会 |
2017 | 伊豆屋伝八文化振興財団 | 伊伝財団文化財保護振興奨励賞 | 松並木と一里塚を守る会 |
2017 | 環境省 | 循環型社会形成推進功労者等大臣表彰(生活環境改善模範地区) | 松並木と一里塚を守る会 |
2016 | 静岡新聞・静岡放送文化福祉事業団 | 第5回ふるさと貢献賞 | 三島市立錦田中学校 |
2014 | 静岡県 | 河川・海岸・道路愛護団体表彰(知事褒状) | 松並木と一里塚を守る会 |
2003 | 県道路利用者会議沼津支部 | 道路愛護優良団体表彰 | 松並木と一里塚を守る会 |
2002 | 三島市 | 環境美化功労表彰 | 松並木と一里塚を守る会 |

5.高齢化と課題、そして未来へ
現在、会員の多くは75歳を超えており、実際に活動できる人数はわずかです。かつて30人以上いた会員も、高齢化の波を受けて活動基盤が弱まりつつあります。このままでは会の存続すら危ぶまれる状況にあります。しかし、その一方で錦田中学校の生徒たちの参加は活動を大きく支える存在となっています。若い世代の協力があるからこそ、清掃活動や景観整備は継続され、未来へとつなげる希望が生まれています。
新しい体制づくりが、喫緊の課題として求められています。世代を超えた協働を広げることで、地域全体が松並木を守る仕組みへと発展していく可能性があります。「伝統を次世代に引き継ぎたい」という言葉は、地域の宝を守り続けるための強い願いであり、これからの活動に向けた大切な道しるべとなっています。
松並木と一里塚を守る会の活動に興味のある方は、下記にご連絡ください。
松並木と一里塚を守る会 会長 今井紀三男
連絡先: imai247@dream.bbexcite.jp
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