三保から戸田でのマイクロプラスチック調査 (A survey of microplastics in Suruga Bay from Miho to Heda)
1.背景
1.1 これまでの研究経緯
私たち静岡県立韮山高等学校(本校)では、柿田川や狩野川など近隣の河川や海岸でマイクロプラスチック(microplastics; MP)の調査を4年間行ってきた。MPとは微細なプラスチックの総称で、研究者により定義はさまざまだが、本校では0.3 mm以上5 mm以下のものを調べてきた。
1.2 戸田ヨットレース実行委員会との連携
海洋でのMPの調査には、船舶を借りるための十分な資金が必要である。本校のMP調査をご覧になった戸田ヨットレース実行委員会の松永巧様から調査協力の提案があった。ヨットレースを行うだけでなく環境問題にも貢献したい意向と、私たちの駿河湾でのMP調査に挑戦したいという所望が一致し、今年度の調査に至った。
三保と戸田の2地点を結ぶ駿河湾海上を戸田ヨットレース実行委員会の協力のもとMPを採取した(図1)。さらに、砂浜におけるMPの堆積量と、その沿岸を流れる海流の様相の因果関係を解明するために、三保と戸田にある砂嘴に注目し、沿岸流との関係を調査した。この2地点の砂を採取しMPを数えた。

2.方法
マイクロプラスチックの調査には、様々な手法がある[1][2]。本校では、ナイルレッドを使用して、マイクロプラスチックを探索している(図2)。まず三保、戸田の地点の漂着物が流れ着いている場所付近の砂を、30 cm四方深さ1 cmの体積で、各地点で3試料を採取した。大きな有機物を取り除くため、採取した砂を4 mmのふるいにかけた。ここから100 gを取り出して、0.3 mmのふるいにかけた。漂着物に由来した有機物を取り除くために、過酸化水素と水酸化ナトリウムで有機物を分解する処理をした。ろ過したのち、70%ヨウ化カリウム水溶液(密度1.7 ほど)でMPを比重分離した。再びろ過をしたのち、ナイルレッドでMPを染色した。ブルーライトを当てて、顕微鏡で蛍光したMPの個数を集計した(図3)。


3.結果
3.1 駿河湾沖の海洋を漂うMP
2024年度の調査では、2回の試料採取を実施できた。10トンと推定される海水をプランクトンネットでろ過したところ、第1回の試料採取では2個の、第2回の試料採取では3個のMPが見つかった(表1)。
表1.海上を漂うマイクロプラスチックの個数
![過去のデータ(2021)は静岡県立韮山高等学校に所属していた卒業生の研究成果から転載[3]。](https://s3.ap-northeast-1.amazonaws.com/wraptas-prod/issfhix-journal/245914a0-a7b0-810c-8f75-c18b30d39f1e/d3fe9845e37b5d23a1a78a550a28d68a.png)
3.2 三保と戸田での海岸の砂に紛れたMP
2024年度の調査では、三保で4地点、戸田で3地点の試料採取を実施できた(図4)。三保では砂100 g当たり5個以上15個以下のMPが見つかった(表2)。戸田では砂100 g当たり75個以上80個以下のMPが見つかった(表2)。

表2.砂中に紛れるマイクロプラスチックの個数
![過去のデータ(2021)は静岡県立下田高等学校に所属していた卒業生の研究成果から転載[4][5]。](https://s3.ap-northeast-1.amazonaws.com/wraptas-prod/issfhix-journal/245914a0-a7b0-8086-a433-f8371428911f/07c3706b7c32e3f3b1416216356b633b.png)
4.考察
4.1 駿河湾沖の海洋を漂うMPは従来の想定より多いかもしれない
駿河湾沖での海洋での採取結果は、MP量が2個と4個となった(表1)。環境省が示すデータは1 当たり0.56個である[6]。今回の調査で採取したMP量はこれよりも多くなっており、採取方法について今後検討していく必要がある。
2021年に私たちの先行研究で静浦ダイビングセンターと淡島でそれぞれ、3個と2個のMPを採取した(表1)。私たちの先行研究ではMPは河川より流入し、内湾から外洋にでていくことから外洋が最もMP量が少ないと仮説を立てていたが、今回のデータでは駿河湾沖のMPと沿岸部のMPがほぼ同じ個数となり、今後の実験方法や採取方法についてさらに検証が必要であると考えられる。
今回はほとんど費用をかけずに高校の実験で駿河湾沖のMPをとることができた。これは、戸田ヨットレース実行委員会との連携により実現できたことで、外部団体との協力による新たな研究方法を確立できたことは、伊豆半島のMP調査においてさらに発展することが期待される。
4.2 三保と戸田の比較
三保で見つかるマイクロプラスチックの個数は少なく、戸田で見つかるマイクロプラスチックは多かった。母平均の仮説検定を試みると、統計学的に意味ある差が検出された(図5)。

三保、戸田のMPの堆積量は海流に影響していると考える。公的データ[7]を調べると、駿河湾内には左旋回する海流が流れている(図6)。この海流は常に湾内を旋回して流れているため地点3と地点4のMPの堆積量が多く、流れが遅い他の2地点はMPの堆積量が少ないと考えられる。一方、東岸では黒潮の分流が伊豆半島に沿って駿河湾内に入り込んで反時計回りに左旋回している。戸田の砂嘴には、右旋回する海流が流れ込んでいると推測され(データは示さない)、河川(大川)からの漂流物を運搬して、MPを堆積させると考えられる。
![図6.海流の2024年度データ
暖色(赤)ほど流れが強く、寒色(青)ほど流れが弱い。A.駿河湾では、左旋回する海流がある。B.下田沖では南西から北東への強い流れがある。Windy.comより取得[7]。](https://s3.ap-northeast-1.amazonaws.com/wraptas-prod/issfhix-journal/245914a0-a7b0-804e-9907-cda1b9fb83b7/d13247a9c7c71d3c1c4f00f5eb244c03.png)
また、静岡県立下田高等学校(下田高校)が2020年から2021年にかけて白浜海岸で行ったMP調査で54個のMPが確認された[4][5]。伊豆半島東岸の海流が速く、MPが多く運ばれていると考えられる。これに対して、三保の海流は流れが穏やかであるため、MPの堆積量が少ないと考えられる。このことから、MPの堆積量は海流の流れの速さに影響しているという仮説を立てた。しかし、仮説に反して、戸田の海流は伊豆半島東岸に比べて穏やかであるが、MPの堆積量は多い。この理由として、戸田には河川(大川)からMPが漂流物として、流入している可能性があると考えた。ただし、今回の研究では、河川(大川)からの漂流物に含まれるMPの個数は調査を行っていないため、さらなる検証が求められる。
謝辞
共同研究を進めてきた静岡県立下田高等学校に加えて、戸田ヨットレース実行委員会の松永巧様、美しい伊豆創造センターの遠藤大介様、静岡市三保松原文化創造センターの皆様に調査の協力と助言をいただきました。ありがとうございました。
参考文献
- 中嶋亮太, 山下麗 (2020) 海洋マイクロプラスチックの採取・前処理・定量方法. 海の研究 29: 129-151. DOI <https://doi.org/10.5928/kaiyou.29.5_129>.
- Erni-Cassola G, Gibson MI, Thompson RC, Christie-Oleza JA (2017) Lost, but found with Nile red: a novel method for detecting and quantifying small microplastics (1 mm to 20 μm) in environmental samples. Environmental science & technology 51: 13641-13648. DOI <https:// doi.org/10.1021/acs.est.7b04512>.
- 渡邊充司, 吉田亮祐 (2024) 学校の枠を超えた環境プラ調査の実践. 山﨑賞顕彰論文優良賞, 山﨑自然科学教育振興会. <https://yamazakizaidan.com/files/4917/0892/3728/0207_40_5.pdf>.
- 小澤翼, 西田貴哉, 藤井菜々美, 三村春樹, 薮田並緒理 (2020) 下田白浜海岸に打ち寄せるプラスチック片の分布. 下田高校理数科課題研究論文集.
- 今井啓太, 進士陽生, 村山陽祐, 若森空大 (2021) 伊豆半島にプラスチック片はどのくらい潜んでいるか. 下田高校理数科課題研究論文集.
- 府川伊三郎 (2017) 海洋プラスチックごみとマイクロプラスチック(上). RS-1019, ARCリポート, 旭リサーチセンター, 55p, <https://arc.asahi-kasei.co.jp/report/arc_report/pdf/rs-1019.pdf>.
- Windyty, SE., Windy.com - Weather Forecast, Weather Radar and Satellite. <https://www.windy. com/>.
© ISS-FHIX 2025 All Rights Reserved.
この論文は、編集委員会を通して著者へのコメントを受け付けます。