伊豆半島の海洋保全を目指したゴミ問題の調査 (A Study on waste issues aimed at marine conservation in the Izu Peninsula)
1.背景
1.1 プラスチック問題への関心
1950年以降、世界で生産されたプラスチックは83億トンを超え、自然界では分解されず年間800万トンのプラスチックゴミが海洋に流れ出ている。そのため、海の生き物がプラスチックゴミに絡まったり、食べ物とプラスチックを間違えたりして死んでしまうなどの環境問題がSDGsの目標14に挙げられている[1]。海の綺麗さを観光資源とする伊豆で、ゴミ拾いを行い、伊豆の海の現状を知り、海を守るために私たちに何ができるか考えるために実験を行うことにした。
1.2 伊豆半島の海水浴場の特徴
伊豆の海が綺麗な理由は、駿河湾が深く、太陽光が海底まで届かないため植物プランクトンによる光合成が行われず浅海の海水とも混じり合わないからである。全国海水浴場きれいな水質ランキングでは[2]、井田海水浴場(沼津市)とラララさんビーチ(沼津市)が1位に入り、その他の伊豆半島の海水浴場も上位に入っている。
2.方法
片浜海岸(沼津市)、オレンジビーチ(伊東市)、まどが浜(下田市)でゴミ拾いを行った。この3つの海岸は保護のために一定の行為を規制されている海岸保護区域に含まれている。回収したゴミは種類別(プラスチックゴミ、燃えるゴミ、瓶や缶など)に分けた。また、海水を収集し、吸光光度計で塩分濃度3.5%の食塩水と比較した。
3.結果
3.1 ゴミ拾い調査の実施
ゴミ拾い調査の結果、どの場所でもプラスチックゴミの割合が多く、花火のゴミや食べ物の袋など捨てられたゴミが大半を占めていた。私たちの予想では、海のゴミは海流に乗って漂流してきたものが多いと考えていたが、夏の観光シーズンだったということもあり伊豆の海水浴場は観光客などによって捨てられたゴミが多いことが分かった(図1)。
3.2 水質分析の実施
水質分析の結果、片浜海岸(沼津市)の海水は、NaCl水溶液の約3倍の吸光度で、3海岸の中で最も純度が低かった。オレンジビーチ(伊東市)の海水は、NaCl水溶液と同程度の吸光度だった。まどが浜(下田市)の海水は、NaCl水溶液の2分の1以下の吸光度で、最も良好な水質だった(図1)。

4.考察
4.1 調査を実施した海岸ごとの分析
片浜海岸(沼津市)でゴミが平均の2.3倍あった理由としては、他の海岸と比べて訪れた人が多かったからだと予想した。花火や食べ物のゴミが見られたことから、観光客によるゴミのポイ捨てが原因だと考えた。
オレンジビーチ(伊東市)でプラスチックゴミよりもガラス片が多かった理由としては、ゴミのポイ捨ては少ないもののガラス片を片付けようという人が少なかったからだと考えた。
まどが浜(下田市)でプラスチックゴミの比率が高かった理由は、まどが浜はあまり遊泳する場所ではなかったため、海を見に来た人が持っていたペットボトルの蓋などプラスチックゴミを捨てたからだと考えた。水の濁りが多いほど吸光度は高くなるため、私たちの調査では、ゴミの量が少ない海岸の海水の水質は、良好であるという関係が分かった(図1)。
4.2 地形および人口をふまえた比較
地形の面から考えると、沼津市は駿河湾に面し湾内で海水が循環しているため、汚れた海水が抜け出しにくいと予想する。その反面、下田市や伊東市の付近には黒潮が流れているため、汚れた海水が流れ出ていきやすく、綺麗な海が保たれるのだと考える。
人口の面から考えると沼津市が最も多く(表1)、そのため、生活排水などによって水が汚くなっていると考えられる。最も海水が綺麗でゴミが少なかった下田市は、人口が一番少ないが海水浴客数が一番多かった(表1)。この結果から、海の綺麗さと海水浴客数には相関があり、伊豆半島ではゴミが少ないほど海水浴客数が多くなる傾向があると推測した。今後、綺麗な伊豆の海を保つために、ゴミ拾いを行い水質改善に向けた研究も進めていきたい。
表1.各市の人口と海水浴客数

謝辞
この寄稿論文は、2024年度の富士箱根伊豆国際学会フォーラム(11月)でポスター発表した研究内容をまとめ直したものです。研究を継続する中で、2024年度の海しる自由研究コンテストでは高校生部門優秀賞[3]を授与(12月)され、審査員からは「海ごみの状況を調べるために海岸で調査を行った結果、想定に反して、漂流ごみよりもその場で捨てられたポイ捨てごみが多いことを見出した。ネットや報道の情報に頼らず、自分たちで実際に調査を行う重要性を再確認させてくれる点で評価できる」とのコメントをいただきました。評価してくださった内外の方々に加えて、研究を支えてくれた韮山高校生物部の部員一同と顧問の先生方に感謝します。ありがとうございました。
参考文献
- 日本ユニセフ協会, 持続可能な世界への第一歩 SDGs CLUB. <https://www.unicef.or.jp/ kodomo/sdgs/>.
- ダイヤモンド編集部 (2024) 水がきれいな海水浴場ランキング2024【全429カ所・完全版】, ダイヤモンド・オンライン. <https://diamond.jp/articles/-/347969>.
- 静岡県立韮山高等学校生物部, 伊豆半島の海洋保全. 海しる自由研究コンテスト, 高校生部門, 優秀賞, 内閣府総合海洋政策推進事務局, <https://www.msil.go.jp/msil/htm/topwindow.html>.
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