伊豆の観光と地域文化の未来ー歴史的資源の活用
1.はじめに
かつて、熱海温泉は東京の奥座敷といわれ、政財界の集う場所であり、企業の保養所や忘年会を行う場所であった。伊豆長岡温泉、修善寺温泉、湯ヶ島温泉、土肥温泉、下賀茂温泉など、伊豆と温泉文化の結びつきをもって国内旅行者で賑わっていた。旅行形態がかわり、個人旅行、体験旅行が中心となってかつての賑わいをなくしてしまったのが現状である。起爆剤のように温泉博覧会や新世紀創造祭などのイベントを行ったが、お祭り騒ぎ、打ち上げ花火で終わり、継続可能な事業になっていかなかった。地域の文化に根ざさないイベント企画に起因し、事業者も一過性のイベントで収入が得られればよしとしたことによるものと思われる。
当伊豆学研究会は文化財を守るために立ち上げた団体で、古文書を中心とする調査活動を主眼に置いてきたが、松崎町にある静岡県有形文化財である旧依田邸の保存運動から始まって取得したことで伊豆全域に活動範囲を広げ、文化財を活用した文化事業を行う団体へと変容、現在は伊豆箱根鉄道大仁駅前ロータリー内に店舗兼事務所を持って情報発信基地として、市民が憩えるコミュニティカフェ、当法人が行う文化財、文化関係出版物を販売し、市民活動の相談などにも関わる事業展開を行っている。こうした活動のなかで、3事例を紹介したい。
2.江川邸を活用した観光
江川邸は昭和33年に民家として第1号の重要文化財「江川家住宅」に指定され、その後建物の追加指定と底地が役所跡として指定され、さらに保存されている資史料群も重要文化財に指定された。文化財を管理する団体として公益財団法人江川文庫があり、筆者が江川文庫の学芸員として働いている関係で、常に公開、活用を意識している。特に10万点近い史料を読み解き、かつて銘酒と言われた江川酒、江戸時代のパンの製法書の発見、江川家で食されていた献立を読み解くなどして、それらに基づいた再現を行った。現在、パンの記念日である4月12日の行うパンフェスタ、年間4回ほど講座と再現した食事と江川酒でもてなし、参加者に楽しんでもらっている。


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3.旧依田邸と手仕事
築300年の古民家を活用した旅館として経営していた依田家から古文書調査を依頼され、目録の完成直後ホテルは廃業した。古民家ということで静岡県指定文化財となり、競売にかけられ、それを取得した。現在は松崎町の所有になっている。旧依田邸を管理し、公開しているが、依田家は伊豆の繊維産業の発祥ともいえる旧家なので、古い衣服を裂いて織り直す裂き織りを法人の声かけで始めた。現在法人内会員12名が活動していて、旧依田邸を使って1年1回サクラの季節に展示即売会を実施、また、通年で裂き織り体験を行っている。年間を通じて相当量の販売実績ができ始め、お土産に買って帰る方が多い。
伊豆は森林資源に恵まれ、船大工から始まって宮大工を多数輩出した地である。松崎で「松崎工房」を興し、木工職人による木工塾を始めた。現在は独立して社団法人を作って活動しているが、関東方面を中心に参加希望者が多く、空席待ちの状況である。松崎町をはじめ賀茂地区は高齢化と過疎化が進み、新たな産業を生み出すことが難しい地域ということを考えると伝統的な手仕事で活性化につなげていきたい。
4.空き家を活用したイベント
南伊豆町子浦という海浜の、狭い路地に住宅が密集した集落がある。昭和がそのまま残された場所で、横浜流星主演の『よみがれ群青』のロケ地となった。ここは狭い路地故家の建て替えができず、高齢化が進み、多くの空き家ができてしまった。地区の要望を受け、空き家を巡る主に手仕事のワークショップや展示会を開催した。軌道に乗り始めた時期にコロナ禍に見舞われ、断念している。
5.まとめ
地域には世代が繋いできた豊かな文化と文化財が残っている。それらを活用することで魅力的な観光資源となり得るし、地域の方々の自信につながり、次につなげるエネルギーに変えることができると考える。
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