地域DNAと国際学会の未来 — 富士・箱根・伊豆から世界へ

「富士・箱根・伊豆国際学会」創刊号巻頭言

 

1.「富士・箱根・伊豆国際学会」の理念と目的

 私たち「富士・箱根・伊豆国際学会」は、この地域の持つ多様な価値を国内外に発信し、学際的な交流を促進することを目的として設立されました。富士山、箱根、伊豆という三つのエリアは、それぞれが豊かな自然、歴史、文化を有し、観光、環境科学、地質学、温泉療法、食文化、アート、文学など、多様な研究分野が交錯する稀有な地域です。
 この学会の特色は、単なる学術的な議論の場にとどまらず、地域社会との結びつきを重視し、産官学の連携を促進する点にあります。地域に根ざした知の蓄積を基盤にしながら、それを国際的な文脈で発展させることが、当学会の大きな使命です。

2.「地域DNA」とは何か

 「地域DNA」という概念は、私たちの学会が重視する重要な考え方の一つです。ここでいう「地域DNA」とは、生物学的な遺伝子のように、その地域固有の文化、歴史、自然環境、人々の営みが長年にわたって蓄積され、形成された「地域のアイデンティティ」を指します。
 例えば、富士山の雄大な自然は、日本人の精神文化の形成に大きな影響を与えてきました。古くは修験道の聖地として、また葛飾北斎や歌川広重の浮世絵に描かれた象徴として、国内外の人々に強いインスピレーションを与えています。箱根は古来より湯治文化が栄え、温泉療法や観光資源としての発展が続いています。伊豆は豊かな海の恵みを享受し、文学や映画、食文化の面でも独自の発展を遂げています。
 これらの要素が複雑に絡み合いながら、富士・箱根・伊豆地域の「DNA」を形作ってきたのです。そして、この地域DNAは固定的なものではなく、時代とともに変化し、新たな価値を生み出し続けています。

3.地域DNAを基盤とした創造的な活動

 私たちは、「地域DNA」を単なる文化的・歴史的な遺産として保護するだけでなく、それを基盤として新たな価値を創出し、国際社会とつながる活動を推進する必要があります。以下に、いくつかの重要な視点を示します。

3.1 学際的なアプローチの推進

 富士・箱根・伊豆地域には、地質学、観光学、温泉療法学、環境科学、文化研究など、多岐にわたる研究分野が存在します。しかし、これらの分野が互いに連携し、新たな視点を生み出す機会はまだ十分に確立されていません。例えば、富士山の地質学的研究と観光学の知見を統合することで、持続可能な観光開発の指針を生み出すことができます。あるいは、温泉療法の医学的研究と地域の伝統的な湯治文化を融合させることで、新しい健康観光のモデルを提案することも可能でしょう。

3.2 国際的な発信と交流の強化

 富士・箱根・伊豆地域の持つ魅力を世界に発信することも重要な課題です。近年、観光のグローバル化が進む中で、持続可能な観光の在り方が問われています。私たちの学会は、海外の研究者や専門家と連携し、国際会議やシンポジウムを開催することで、この地域が世界的な視野の中でどのように発展できるかを模索していきます。

3.3 地域社会との連携と実践的な取り組み

 学術的な研究が地域社会に貢献する形で活かされることも、私たちの学会の大きな目標の一つです。例えば、環境保全の観点から、富士山の登山道の維持管理や観光客の受け入れ態勢の整備について、専門家の意見を交えながら地域と協力していくことが求められます。また、地域の伝統工芸や食文化の継承・発展を学術的な視点から支援し、新たな産業やビジネスモデルを創出することも考えられます。

4.未来への展望 — 富士・箱根・伊豆から世界へ

 「地域DNA」は、単なる過去の遺産ではなく、未来を形作るための礎でもあります。私たちの学会は、富士・箱根・伊豆の豊かな歴史や文化を大切にしながら、それを現代的な視点で再解釈し、国内外の研究者や実務家と連携して新たな知見を生み出していきます。
 この創刊号を契機に、「富士・箱根・伊豆国際学会」は、地域と世界をつなぐ学術プラットフォームとしての役割を果たし、持続可能で創造的な地域社会の未来を築くための議論を深めていきたいと考えています。
 富士・箱根・伊豆の地から、学問と文化の新たな可能性を探求し、世界へと発信していきましょう。
 
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